メーカーの器から、作家の器へ。これからの器づくりと選ばれ方

メーカーの器から、作家の器へ。これからの器づくりと選ばれ方

KIKKAKEKKO

これからの器づくりについて

メーカーのブランドから、作り手の顔が見える器へ。SNSとECが変えた器の選ばれ方と、これからの作家・メーカー・店の役割を考えます。

個人作家の器は、これからさらに存在感を増していく。

ただし、それはメーカーの器が作家ものに置き換わるという意味ではありません。食器市場が成熟していくなかで、作家の器が価格競争から離れた「意味と愛着のある領域」を広げていく——そう捉えるのが、もっとも実態に近いように思います。

高級食器は、メーカーがブランドをつくってきた

これまで国内外の高級食器市場を牽引してきたのは、ノリタケ、大倉陶園、ウェッジウッド、ロイヤルコペンハーゲンなどのメーカーでした。

メーカーの強みは、単に量産できることではありません。

  • 品質やサイズが均一であること
  • 同じシリーズを長期間買い足せること
  • 百貨店や専門店を通じて広く流通できること
  • 箱、包装、保証まで含めて贈答品として成立すること
  • ブランド名そのものが品質を保証すること

かつて消費者が作り手と直接出会う機会は限られていました。そのため、百貨店や雑誌、専門店に商品を届けられるメーカーが圧倒的に有利でした。高級食器の価値は「誰が作ったか」よりも、「どのブランドの商品か」によって伝えられていたのです。

SNSが、個人作家と消費者の距離を縮めた

SNSとECの登場によって大きく変わったのは、器そのものよりも、作り手と消費者の間にあった流通構造です。

以前の個人作家は、作品が優れていても、ギャラリーや陶器市、雑誌、百貨店催事など、第三者の力を借りなければ全国の消費者に知ってもらうことが難しい存在でした。

現在は、制作風景、窯焚き、釉薬の表情、暮らし方、作家自身の思想までSNSで直接伝えられます。ECを組み合わせれば、作品との出会いから購入まで、小規模な工房だけで完結させることもできます。

2024年の国内BtoC-EC市場は26.1兆円となり、前年比5.1%増加しました。ハンドメイド市場では、2025年2月期時点のCreemaに約29万人のクリエイターが登録し、年間流通総額は154億円。minneも2024年3月時点で作家・ブランド数91万、2023年の年間流通額は129億円に達しています。

これらの数字には陶芸以外のカテゴリーも含まれます。それでも、個人が作品を発信し、全国へ直接販売できる基盤が、すでに大きな規模で成立していることは確かです。

いま買われているのは「器+作家の物語」

作家ものが支持される理由は、単に一点ものだからではありません。

どの土地で、誰が、どのような素材や技法を使い、なぜこの形や色を生み出したのか。使ったとき、食卓にどんな景色が生まれるのか。工芸や暮らしに関心のある人は、こうした背景まで器の価値として受け取るようになりました。

メーカーが「完成されたブランド」を届けるのに対して、個人作家は、人、土地、時間、制作過程まで含めた関係性を届けることができます。

SNSでは、完成した作品だけでなく、土を練る様子、窯から取り出す瞬間、試作の跡、作家の暮らしまで継続的に伝えられます。消費者もまた、「器を買った」という感覚に加えて、「好きな作家を見つけた」「その活動を支えた」という実感を持ちやすくなりました。

これは、従来型のメーカーが簡単には再現できない価値です。

ただし、器市場全体が伸びているわけではない

個人作家が注目されるようになったことと、器や工芸の市場全体が拡大していることは、分けて考える必要があります。

経済産業省によると、伝統的工芸品全体の生産額は1998年度の2,784億円から、2020年度には870億円まで縮小しました。人口減少、贈答需要の縮小、住宅や食生活の変化、安価でデザイン性の高い量販品の普及などが、器を取り巻く環境を変えています。

また、作家系の市場も無条件に伸び続けているわけではありません。Creemaの年間流通総額は、2024年2月期の165億円から2025年2月期には154億円へ減少しています。

「SNSに作品を投稿すれば売れる」という段階は、すでに終わりつつあります。作家と作品の情報が増えたことで、見つけてもらう競争はむしろ激しくなりました。SNSは発信を容易にした一方、撮影、文章、顧客対応、発送など、新しい仕事も作家に求めています。

メーカーの器がなくならない理由

作家の器が存在感を増しても、メーカーの器には、これからも明確な役割があります。

求められる価値 メーカー 個人作家
品質・サイズの均一性 強い 個体差が魅力にも課題にもなる
大量・安定供給 対応しやすい 制作数に限界がある
買い足し・交換 対応しやすい 同じものが作れない場合がある
業務用・贈答需要 強い 小規模・特別な案件に向く
希少性・一点性 生み出しにくい 強い
作り手との関係性 伝え方に工夫が必要 非常に強い
物語性 ブランドの歴史 人柄や現在の制作まで伝わる

ホテル、飲食店、贈答品、日常使いの定番では、品質と供給を安定させられるメーカーが必要です。一方、自分らしい暮らし、収集、作家への共感、少量の特別な買い物では、個人作家が優位になります。

生活を支える器と、暮らしに意味や愛着を加える器。それぞれの役割が、より明確に分かれていくのではないでしょうか。

これから増える「作家とメーカーの間」

今後伸びていくのは、純粋な個人作家だけではなく、作家性を保ちながら、事業としての仕組みを備えた小さなブランドだと考えています。

  • 作家本人の表現を核にしながら定番商品を設ける
  • 制作の一部をスタッフや工房で分担する
  • 一点ものと継続生産できるシリーズを分ける
  • ギャラリーやセレクトショップと協業する
  • 飲食店や宿泊施設の別注に応える
  • 海外に向けて作品の背景を翻訳し、発信する

メーカー側も、作家やデザイナーの名前を前面に出し、産地や職人の物語を発信し、少量生産のコレクションを手がけるようになるでしょう。

メーカーが作家化し、作家が小さなメーカー化していく。その中間領域に、これからの器づくりの可能性があります。

器を選ぶ店に、できること

SNSによって作家を見つけやすくなった一方で、消費者にとっては作品が多すぎて、本当に良いものや、自分の暮らしに合うものを判断することが難しくなっています。

だからこそ、KIKKAKEKKOのようなセレクトショップには、これからも役割があります。

  • 数多くの作品から、長く使いたいものを選び抜く
  • 作品の背景を、暮らしの言葉に翻訳して伝える
  • 手に取り、重さや口当たりまで確かめてもらう
  • 作家だけでは出会えないお客様へ作品を届ける
  • 一過性の人気ではなく、長く残る作り手を支える

店は、単に器を仕入れて並べる場所ではなくなります。作家と使い手の間に立つ、編集者であり、案内人であり、ときには伴走者でもある。その役割は、情報があふれる時代ほど重要になっていくはずです。

これから個人作家の器が、すべてのメーカー品に代わっていくわけではありません。

けれども、市場全体が大きく伸びにくい時代だからこそ、価格の安さではなく、「なぜ、この器を選ぶのか」を伝えられる作家と店に価値が集まっていく。

それが、これからの器づくりと、器の商いの一つの方向なのだと思います。

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